top of page

技術情報

 本報告書は、アクアの技術開発課スタッフのスマートフォンのガラス面に付着した微生物に対する大気圧プラズマの殺菌効果を検証し、その対象となった微生物の詳細と共に結果をまとめたものです

1. 実験の目的

 スマートフォンは、人の手指との頻繁な接触や様々な環境への暴露により、多種多様な微生物が付着する

「微生物の交差点」のような存在です 

 本実験は、このスマートフォン表面の微生物に対し、大気圧プラズマ照射がどの程度の殺菌効果を持つかを

可視化し、その有効性と課題を明らかにすることを目的とします

2. 実験の概要

 スマートフォンのガラス面の「未処理の部分」と「ガラス面に大気圧プラズマを照射した部分」から綿棒で微生物を採取し、培養を行いました 

 その後、両者のペトリ皿に形成された微生物のコロニーを比較することで、殺菌効果を評価しました 

未処理採取

プラズマ照射後採取

3. 結果と比較

3.1. 観察された微生物

 主に「手指由来の菌」と「環境由来の菌」が確認され、少なくとも3種類の微生物が観察されました 

PXL_20250626_050942870.jpg
PXL_20250626_051027555.MACRO_FOCUS.jpg

  • 細菌または酵母

    • 見た目の特徴: ほぼ完全な円形で水滴のように盛り上がり、表面は滑らかで光沢がある乳白色のコロニーが形成されました 。

    • 考えられる由来: 人の手指に常に存在するブドウ球菌属 (Staphylococcus) や、口内や皮膚にいる酵母 (Candidaなど) の特徴とよく一致します 。これらはスマートフォンに最も頻繁に付着する微生物と考えられます 

  • 糸状菌(カビ)

    • 見た目の特徴: 綿やフェルトのようにふわふわした質感で、菌糸を伸ばしながら放射状に広がっていました 。成熟すると胞子を形成し、灰色がかった粉状に見えました 。

    • 考えられる由来: 空気中に浮遊しているアオカビ (Penicillium属) やコウジカビ (Aspergillus属) の胞子がスマートフォンに付着し、培養されたものと推測されます 

  • 放線菌

    • 見た目の特徴: 肉眼では白く平坦に見えますが、顕微鏡では非常に細かい粒状・粉状の集合体です 。表面は乾燥して硬く、チョークの粉のように見えることがあります 

    • 考えられる由来: 土壌などに広く生息しており、土埃などと一緒に空気中から付着したと考えられます 

WIN_20250626_14_30_20_Pro.jpg
WIN_20250626_14_29_28_Pro.jpg
WIN_20250626_14_27_33_Pro.jpg

顕微鏡観察

3.2. 大気圧プラズマ照射の効果

スマートフォンのガラス面への大気圧プラズマ照射の有無それぞれの培養実験の結果、以下の変化が見られました

  • 明確な殺菌効果: プラズマ照射後のプレートでは、「未処理」のものと比較して全体的にコロニーの数が減少しました 

  • 細菌様コロニーへの高い効果: 特に、手指由来の細菌と考えられる小さなコロニーはほとんど見られなくなりました

​未処理のガラス面から採取したもの

プラズマ照射後のガラス面から採取したもの

PXL_20250626_050857255.MACRO_FOCUS.jpg

​細菌または酵母

糸状菌(カビ)

透明の円形のものは

蓋に付いた水滴です

PXL_20250626_050851116.MACRO_FOCUS.jpg

糸状菌(カビ)

放線菌

​4. 考察:効果の限界と今後の可能性

 今回の実験では、大気圧プラズマの有効性が確認された一方で、大きめのカビのコロニーがいくつか生き残って成長していました 

これには、主に3つの可能性が考えられます

  1. 細菌に比べてカビの胞子が物理的ストレスに対して元々強い抵抗性を持つこと 。

  2. 今回のプラズマの照射条件(時間や強度など)が、抵抗性の高い微生物まで完全に死滅させるには十分でなかった可能性 

  3. 一般室で実験を行ったため、室内の浮遊菌が混入した可能性

 

5. 結論

本実験により、以下の2点が明らかになりました。

  1. 大気圧プラズマ処理は、スマートフォンに付着した「手指由来の細菌・酵母」などの微生物を減少させる効果が期待できます 

  2. 一方で、カビの胞子のように抵抗性の高い微生物も存在するため、完全な殺菌を実現するには、照射条件の最適化などが必要である可能性が示唆されました 

 日常的に使用しているスマートフォンの表面には、空気中から付着したカビの胞子や、人の皮膚・環境由来の様々な細菌が付着しています

 それらを綿棒等で採取し、寒天培地という栄養豊富な環境に置いたところ、カビと細菌がそれぞれ活発に増殖し、目に見える大きさのコロニーを形成しました

 これは決して衛生状態が悪いということではなく、私たちの身の回りには無数の微生物が存在していることを示す、興味深い実験結果でした

 簡単にできる実験ですが、危険な病原菌などが増殖する可能性がありますので、専門知識を持つ人の指導のもとで、安全に実験を行ってください

6. 追加テスト

実験室内の浮遊菌確認テスト

 プラズマ照射後のサンプルにカビのコロニーが発生した件について、実験室内の浮遊菌が混入した疑いがあるため、本実験と同じ環境(実験室の壁に設置されたHEPAフィルター前)でペトリ皿の蓋を30秒程度開放したもので培養実験を行いました。

結果

 3日経過後、菌のコロニーは確認できませんでした。

​ 今回の実験では、室内の浮遊菌の混入の可能性は低いと判断しました。

大気圧プラズマによるスマートフォン付着菌への殺菌効果検証

注意:一般室で行った実験のため、室内の浮遊菌が混入している可能性があります

bottom of page